ゴキブリとは -徹底解説-

ゴキブリの多様性

ゴキブリという名前を聞いたら、多くの方はその姿を容易に思い起こすことができると思います。黒っぽい体に長い触角、トゲの多い肢を持ち、台所を素早く駆け抜ける。そんなイメージを持つ方が多いでしょう。このイメージは本州の家庭で多く出没するクロゴキブリPeriplaneta fuliginosaに寄るものです。

しかし、ゴキブリは世界に4600種以上(Beccaloni, 2014)、日本には64種(柳澤, 2022)が生息しているとされています。ダンゴムシのように丸くなる種、宝石のように輝く種、翅を持たず地中に穴を掘りそこで子育てをする種など、姿かたち、生態は多様です。「黒くて素早いアイツ」だけがゴキブリではないのです。

また、ほとんどの種は野外に生息しており、屋内に出没するのはわずかな種に限られます。野外では落ち葉や朽木、動物のフン・死骸、キノコ、粘菌、花粉などの様々なものを摂食し、分解者として重要な役割を担っており、欠かせない存在です。さらに、ゴキブリは被捕食者としてクモ、昆虫、甲殻類、菌類、鳥類、両性類、爬虫類、哺乳類と非常に多くの生きものに捕食され、支えています。

害虫としてのゴキブリ

そうはいっても、ゴキブリを語る上で害虫としての側面を忘れてはならないでしょう。日本の多くの家庭ではクロゴキブリが家屋内に浸入・繁殖をして不快害虫・衛生害虫として悩みの種となります。また、暖かい地域ではクロゴキブリに代わってワモンゴキブリPeliplaneta americanaが出没します。チャバネゴキブリBlattella germanicaは通年を通して温暖な環境に定着するため、飲食店や食品工場などで繁殖し、しばしば混入などで問題となります(クロゴキブリも混入します)。昆虫は身近さが魅力の一つですが、ゴキブリは身近過ぎるがゆえに人間にとっては好ましくない影響を及ぼすことがあるのです。そのため、これまで様々な防除方法やトラップが開発されてきました。様々いる昆虫の中でも、人間とこのような関係を持つ昆虫は多くありません。スーパーや薬局の虫対策コーナーに行けば、その関係の深さの一端を知ることができます。

ペットとしてのゴキブリ

ゴキブリは共食いをしにくいことや、不完全変態で幼虫・成虫が同様の環境で飼育でき、1つの飼育ケースで孵化から繁殖まで可能であること、雑食性の種が多くエサを用意することが簡単であることなどから、ペットとして優秀な昆虫であると言えます。国内外で様々な種が「ペットローチ」として飼育され、日本で手に入る種だけでも100種を超えます。愛玩目的だけではなく、爬虫類や肉食節足動物のためのエサとしても多く飼育されており、トルキスタンゴキブリPeriplaneta lateralis(レッドローチ)やアルゼンチンモリゴキブリBlaptica dubia(デュビア)はこの代表です。また、飼育・繁殖・入手が容易であることなどから、実験動物としても活躍しています。

ゴキブリは人間とのかかわりが深い昆虫であり、様々な研究が行われてきました。しかしながら、野外に生息するゴキブリがどこでどのような暮らしをしているかについては、日本に生息する種においても、まだまだ未知の部分が多くあります。非常に身近であり、人との関係が深く、まだまだ謎多き昆虫がゴキブリなのです。

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執筆:柳澤静磨
竜洋昆虫自然観察公園職員。元ゴキブリ嫌いのゴキブリ研究者。ゴキブリスト/ゴキブリハンター。ゴキブリを求めて世界を旅している。ゴキブリ談話会世話役。著書:『ゴキブリ研究はじめました』『ゴキブリハンドブック』『学研の図鑑 新版 昆虫(ゴキブリ目)』など。

補足:Terminal Legs 外村康一郎

引用文献

・Beccaloni G. W., 2014. Cockroach Species File Online. Version 5.0/5.0. World Wide Web electronic publication. accessed 16 September 2023.

・柳澤静磨, 2022. ゴキブリハンドブック. 文一総合出版. 東京.