タランチュラとは -徹底解説-

タランチュラとは

タランチュラとはオオツチグモ科のクモの通称です。
主に熱帯域に生息し、現在約1,000種が知られています。
体長は5~10cm、脚を自然に広げた時の大きさ(レッグスパン)が30cmに達するものもいます。

タランチュラの語源はイタリア南部の港町「タラント」とされています。この地方には古くから毒グモの伝承がありました。
タラントに生息する毒グモに噛まれると死に至るが、タランテラというテンポの速い踊りを踊り続けると助かるという一風変わったものです。
この毒グモはタランチュラコモリグモと呼ばれるコモリグモの仲間とされています。

現在のタランチュラは、この伝承を知るヨーロッパ人たちが新世界へ渡り巨大なクモを観察した際に名付けられたようです。

タランチュラについて沢山の情報がある我々ですら、タランチュラを見ると思わず悲鳴を上げる人もいるため、何の情報も無い中で初めて目の当たりにするタランチュラは驚愕そのものだったでしょう。

タランチュラの各部位

タランチュラの体
タランチュラの体は頭胸部と腹部に大別されます。

昆虫では頭、胸、腹と3つですが、クモの場合は2つとなっています。
頭胸部と腹部の間は腹柄という細い節で繋がっています。

頭胸部は主に摂食、運動機能を担い、腹部は消化、排泄、呼吸、生殖、そして紡糸を担います。

タランチュラの足
さて、タランチュラはクモの仲間ですから、脚は8本のはずです。
ところが実際に数えてみると10本あるように見えませんか?

実は歩くために使う脚は8本ですが、一番前の短い脚は触肢(しょくし)といい、歩行には用いられません。触肢には昆虫の触角のような働きや、摂食を補助する役割があります。
またオスの場合、特に雄触肢と呼ばれ、成熟した個体では交接に用いられる重要な器官です。

タランチュラは他のクモに比べて触肢が発達しており、脚が10本に見えたわけです。学校で習ったことでも自分の目で確認してみると意外な発見がありますね。

触肢は根本側から、基節、転節、腿節、膝節、脛節、跗節の6節、
歩脚は根本側から、基節、転節、腿節、膝節、脛節、蹠節、跗節の7節にわかれています。

タランチュラの毒牙(鋏角)
タランチュラといえば毒のある牙が有名でしょう。
映画やゲームの影響で咬まれると死ぬと誤解をされていますが、実際にはそこまで強毒種は知られておりません。

しかし、すべてのタランチュラは鋏角に毒腺をそなえています。
人が致命傷を負うような毒ではありませんが、物理的に刺さっただけでも十分痛いことが予想されます。脱走にもつながるため、手にのせるハンドリングは絶対に避けましょう。

自然下ではコオロギなどの昆虫やカエルなど両生類、トカゲなど爬虫類や小型の鳥類まで捕食することで知られています。

毒を出すための穴は先端よりも少し手前にそなわっています。
これにより、穴が詰まりにくくなると予想されます。
他の多くの毒虫が同じ構造をそなえています。

タランチュラの眼
タランチュラは単眼を4対そなえ、それぞれの単眼は前中眼、前側眼、後中眼、後側眼と呼ばれます。

また、単眼の周辺は少し盛り上がった構造をしており、これを眼丘(がんきゅう)と呼びます。

タランチュラの糸疣(しゆう)
タランチュラは糸疣から糸を出します。糸は地面や樹上に張ることで巣にしたり、命綱の役割を果たしたり、産んだ卵を包んだりすることに用いられます。

タランチュラの腹面
タランチュラの腹部は消化、排泄、呼吸、生殖、紡糸を担います。

タランチュラの書肺
書肺と呼ばれる2対の呼吸器官が特徴的です。内部構造が書物の様に見えるためこの名前で呼ばれています。
脱いだばかりの新しい脱皮殻を見ると、きっと理由がわかるでしょう。

書肺

このような構造は、表面積を増やし、ガス交換に有利であると考えられています。

歩脚毛束
歩脚毛束とは、蹠節、跗節に密生している細かな毛を指します。多くの場合見る角度により色が異なる構造色をそなえています。

雌雄判別

雌雄判別は脱皮殻を用いることが一般的です。
新鮮な脱皮殻であれば、そっとシワを伸ばすだけで雌雄が判別できます。

メスの場合、ネコミミのような精子嚢が目立っています。

鋭い方は「雌生殖器」ではなく「外雌器(がいしき)」ではないのか、と疑問を持つことでしょう。
外雌器は精子挿入口と産卵口の入り口が明瞭に分離しているという定義があるため、ハラフシグモ亜目やトタテグモ下目には適用できません。この形質が見られるようになるのはクモ下目となります。

オスの場合は第一書肺の間に精子嚢がないため判別できます。
またオスが最終脱皮を終え成熟すると雄触肢や種によってはメイティングフックがそなわります。

雄触肢


クモのオスは腹部から精液を分泌して網に垂らし、スポイト状の触肢で吸い取ることで交接の準備を整えます。
これを雌生殖器にあてがい交接を行います。
腹部末端の交尾器同士を結合させる真の交尾とは区別して「交接」とよびます。

タランチュラの場合、雄触肢と雌生殖器は鍵と錠の関係となっており、種の同定にも欠かせない形質です。

メイティングフック

メイティングフックは交接時、メスの毒牙(鋏角)を封じ、捕食されることを防ぐ働きがあります。
なお、Theraphosa属などは成熟したオスでもメイティングフックはありません。

雌雄での寿命の違い

オスは寿命が短く、飼育対象となるのは、多くの場合メスといえます。
極端な場合、オスの寿命が3年程度に留まるのに対し、メスでは30年近く生きる種さえ知られています。
ペットルートでは需要の差が価格にも反映され、メスだと判明すると3倍程度の価格になることも珍しくありません。

このような寿命の差は、近親交配を避けることに有効であると考えられます。

タランチュラの分布と4つの分類

タランチュラは主に熱帯域に生息しています。

生物学的な分類とは異なりますが、
アジアのタランチュラを「アースタイガー」
アフリカのタランチュラを「バブーン」
アメリカ大陸のタランチュラを「バードイーター」
また樹上性のタランチュラを「ツリースパイダー」と呼びます。

飼育の歴史の中で生じた言葉であるため、統一感はありませんが、会話や文章を読む上で必要となるため、覚えておくと便利でしょう。

コバルトブルーアースタイガー
タイなどに分布する青い歩脚が特徴的なタランチュラ。

ウサンバラオレンジバブーン
タンザニアなどに分布するオレンジ色のタランチュラ。

ブラジリアンブラックバードイーター
ブラジルなどに分布する漆黒のタランチュラ。

グーティサファイアオーナメンタル
こちらはツリースパイダーの代表種として掲載しました。

3つの生息環境

タランチュラは、それぞれ地表性、地中性、樹上性の3つの環境に適応した種がいます。

地表性
地表性種では主に地表に生息します。
野生環境下では穴を掘ったり、大木の下にいることも多いのですが、特に飼育下では巣穴を掘る傾向が薄いため、このように呼ばれます。

飼育ケージを糸だらけにせず、地中に隠れてしまうこともあまりないため、鑑賞するにはうってつけのグループです。

サンタレムピンクヘアード


初めてタランチュラを飼育する人は地表性種を選択する傾向が強いように思います。

地中性
自然下、飼育下問わず積極的に穴を掘り、巣穴の内側を糸で裏打ちする傾向の強いグループです。

エレクトリックブルーアースタイガー

夜間や空腹時になると巣穴から足を覗かせて獲物を待ち構えています。
ある程度の湿度を好み、気性が荒い種が多いのも特徴です。

樹上性
自然下では一生の大半を樹上で、飼育下でもケージの上部などに留まることの多いグループです。

サンタイガータランチュラ

木の雨露や、木に沿って糸を張る種が多いです。
経験上、この仲間は自然下で出逢う事はかなり難しいと言えます。

地中~樹上どちらも行き来する半樹上性など組み合わさった種も多く存在します。細かな説明は各々の種解説にてご確認ください。

タランチュラの生涯

タランチュラは他のクモと同様に卵から発生します。産卵数は少ないもので数十個、多いもので1,000個を超えます。卵は糸で作った卵嚢の中で保護されます。

出嚢したばかりの時期を「スパイダリング」
色味を帯びるまでを「ベビー」
成体色に変わる前だが、体つきはしっかりしてくる時期を「ジュブナイル」
色合いは成体と変わらないが成長できる段階を「サブアダルト」
平均的な成体を「アダルト」
その種の最大サイズにまで成長したものを「フルアダルト」と呼びます。

タランチュラは採餌をし、脱皮をして生涯大きくなる生物です。

エサを食べるとタランチュラは腹部に水分や栄養を貯めます。
脱皮後にはこれを利用して体を風船のように膨らませて成長します。

腹部の栄養が不十分であるのに一定時間がたつと脱皮をする個体がいます。
こうなると体を十分に膨らませることが出来ずに脱皮不全を起こします。

十分に採餌が出来る環境がタランチュラには必要です。

タランチュラの飼育方法

営巣中です。

新種のタランチュラ

タランチュラは現在でも新種や新属が数多く発見されています。
下記は近年記載されたばかりの新属新種です。
Birupes simoroxigorum Gabriel & Sherwood, 2019
Taksinus bambus Songsangchote, Sippawat, Khaikaew & Chomphuphuang, 2022

中でもTaksinus bambus は竹の中に生息することが判明して世界中を驚かせたタランチュラです。

絶滅のおそれのある野生のタランチュラ

タランチュラは美しい種が多く、国際取引に利用され、乱獲や開発、気候変動により自然下で生息数を減らしている場合があります。

そのようなタランチュラはワシントン条約 正式名称:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)により保護されています。

ワシントン条約は国際取引のための過度の利用による野生動植物種の絶滅を防止し、それらの種の保全を図ることを目的とした条約です。

附属書には必要とされる規制内容に応じて3つの区分があります。


附属書Ⅰ
絶滅のおそれが高く、取引による影響を受けているか受ける可能性があるため、取引を特に厳重に規制する必要のある種を掲載。商業目的のための国際取引を原則禁止。学術目的等の取引は可能だが、輸出国・輸入国双方の政府の発行する許可証が必要。

附属書Ⅱ
現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種となりうる種を掲載。商業目的の国際取引は可能だが、輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要。

附属書Ⅲ
締約国が自国内での保護のため、他の締約国の協力を必要とする種を掲載。商業目的の国際取引は可能だが、掲載国を原産地とする輸出には政府の発行する輸出許可書等が必要。掲載国以外の国を原産地とする輸出がなされる場合には原産地証明が必要。

出典: https://www.env.go.jp/nature/kisho/kisei/cites/ ワシントン条約とは 2023/05/20 利用


タランチュラの場合、以下が該当します。(2023年5月21日現在)

附属書Ⅱ
Aphonopelma pallidum
Brachypelma spp. ブラキペルマ属全種
Poecilotheria spp. ポエキロテリア属全種
Sericopelma angustum
Sericopelma embrithes
Tliltocatl spp. トリルトカトル属全種

附属書Ⅲ
Caribena versicolor アンティルピンクトゥー

Poecilotheria metallica グーティーサファイアオーナメンタル
Tliltocatl albopilosum カーリーヘアータランチュラ
Caribena versicolor アンティルピンクトゥ

幸いなことにタランチュラは国内での繁殖も盛んです。奇蟲の中で最も繁殖個体比率が高く、環境負荷が低いと言えるでしょう。

当店では数多くのタランチュラの販売も行っています。
ぜひ魅惑的なタランチュラの世界に足を踏み入れてください。

https://terminal-legs.com/products/tarantula

野外でのタランチュラの観察方法

きっと野外でタランチュラを見てみたいという方もいらっしゃることでしょう。
今回は野外での観察例をご紹介します。

STEP.1 行く場所を決める
タランチュラは残念ながら日本には生息していません。そのため海外で観察する必要があります。
タランチュラは熱帯を中心に分布しているため、まずは南を目指しましょう。
タランチュラを観察する前に重要なのは治安です。治安が悪い地域ではタランチュラの観察どころではないからです。
また空港から熱帯雨林へのアクセスも重要です。上空写真では一面の森に見えていても実際にはアブラヤシやゴムのプランテーションで立ち入ることが出来なかったり、そもそもタランチュラが生息していないこともあります。

総合的に評価して、はじめてタランチュラを観察するのに適した場所はシンガポールだと筆者は考えています。

大都会やけどホンマにおるんけ?

STEP.2 昼間に目星を付ける
タランチュラは多くの場合、巣穴を持っています。そのため昼間に目星をつけておきましょう。ジオグラフィカなどGPSアプリを用いて地点をマークしておくと便利です。

毒蛇や崖からの転落など視界が悪くなる夜間は危険が多いため下見は必須です。
さらに、国立公園では夜間立ち入り禁止のエリアも多いため事前確認を必ず行いましょう。

こちらはタイで撮影。入口は固く閉ざされている……。

STEP.3 夜間に観察しに行く
昼に見つけた巣穴に行ってみましょう。
巣穴の近くまで来たら、ヘッドライトの灯りは最も暗い設定にしましょう。
多くのタランチュラは光に照らされると逃げてしまいます。

また、昼間に気づくことが出来なかった小さな個体も周辺に沢山いることでしょう。
振動や明かりの出力に注意しながらそっと観察します。

それでは楽しいタランチュラライフを!

この記事を書いた人

奇蟲専門店 代表:外村康一郎  日本土壌動物学会所属 。
群馬県立自然史博物館「毒のある生き物大図鑑」でのタランチュラ写真提供、雑誌POPEYE No. 909 ポパイフォーラム マガジンハウス “図鑑に載った写真を頼りに数万キロ たった数センチのムカデを探しに旅に出る” の執筆など実績多数。

Edaphologia No.110 岩﨑朝生・外村康一郎:渡嘉敷島(慶良間諸島)からの半水棲オオムカデ,リュウジンオオムカデ Scolopendra alcyona (Scolopendromorpha, Scolopendridae)の初記録 などの論文を執筆。