マレーシアンチェリーレッド

マレーシアに広く棲息しているアジア屈指の大型のムカデです。
流通名はサクランボのような発色の良い赤色をしていることに由来しています。

これほど全身が顕著に赤くなるムカデは少なく、本種は貴重な存在です。

かなり広域に分布しているため、棲息地により最適な温度や色彩が変化します。
一般に、ハイランドタイプが赤みが強いとされていますが、例外も多数あります。

こちらはミッドランドフレイムと呼ばれる、中標高地域に棲息する、歩肢が炎のような表現のタイプです。

通常はソリッドな赤い歩肢が特徴ですが、地域によりこのような特徴を持つ場合もあります。

そしてさらに驚くべきは幼体の色です。

まるで同種とは思えないような色彩です。
頭部から第一歩肢は瑠璃色、それ以降の節や歩肢は橙色で背甲は後縁が黒く縁どられ、縞模様を呈します。

本筋から少し外れますが、Scolopendra dehaani の幼体はScolopendra arborea として記載されていたことがあります。現在ではシノニムです。

学名はScolopendra dehaani です。
これは、 昆虫、甲殻類の研究で功績を残した、オランダの動物学者
Wilhem de Haan(ウィレム・デ・ハーン)氏への献名です。

同氏はライデン王立自然史博物館の初代無脊椎動物管理者を務めた他、
シーボルトらが日本で収集した標本や図をもとに、テミンク、シュレーゲルらと『日本動物誌』(Fauna Japonica : ファウナ・ヤポニカ)を執筆しました。

同氏への献名は数多く、有名なものでは
サワガニ Geothelphusa dehaani
クロベンケイガニ Chiromantes dehaani
オオオサムシ Carabus dehaanii などが知られます。

かなりマニアックな楽しみ方ですが、チェリーレッドは集めだすと止まりません。

参考
学名:Scolopendra dehaani
全長:26cm 前後 ムカデの計測は誤差が出やすいため目安
温度:ハイランド18-24℃ ミッドランド23-26℃ ローランド25-28℃
湿度:高湿度
棲息環境:地中
成長速度:1年で性成熟(成虫)

マレーシアに行けば高確率で出逢えるムカデです。
雨の日に道路を車で走っていたら、道を横切っていたことが何度かあります。

棲息地

マレーシアンチェリーレッドは名前の通りマレーシアに棲息するオオムカデの仲間です。マレー半島のほとんど全域に棲息しています。

マレー半島は熱帯雨林に覆われており、面積の半分以上が海抜が150mを越える、山の多い地域です。
そのため本種は棲息している標高によって主に3つの呼び分けがあります。
低地産ではローランドチェリー、中標高地域産ではミッドランドチェリー、高標高産ではハイランドチェリーと呼ばれます。

一般にはハイランドチェリーが色鮮やかで美しいとされますが、逆転現象もみられるため、外見から判断することは難しいと言えます。

100m高度が上がるごとに0.6℃気温が下がります。
マレーシアンチェリーレッドは最高1500m程度の地域まで分布しているため、
海抜0m地域と比べると約9℃も低い気温で生活しています。
この違いは飼育方法にも大きく影響するため、可能な限り採集地が明確な個体を選びましょう。

現地での様子

日中ではほとんど姿を現しませんが、日没後は彼らの時間です。
低地から中標高地域では最もよく見かけるムカデです。
個体数はそれなりに多く、雨天では運転中に道路を横切る事すらあります。
樹上で見かけることも多く、木に寄りかかることは避けるべきでしょう。

現地での採集や日本への持ち帰り

マレーシアでは生物採集の許可が必要です。また保管するための飼育許可、さらに持ち帰る際に輸出許可必要です。最低3点の許可が必要となるため、一般の方にはかなりハードルが高いと言えます。(2020年1月時点)

飼育方法

一般的に流通するローランドチェリーの飼育方法について。
全長25cmと大型化するムカデですので、最低でも長辺25cmのケースが必要です。
市販のプラケースやクリアースライダーラージ(通気口は増設する必要がある)、レプタイルボックスで飼育が可能です。

好適温度は25-28℃程度。湿度は60-80%を保ちます。水入れは必須です。

給餌方法

イエコオロギ、クロコオロギを中心に与えます。本種はレッドローチ、デュビアはあまり好まない傾向があり、単用していると空腹にも関わらず採餌せず、知らず知らずのうちに瘦せていったり、成長不良になることがあります。

週に2-3回食べるだけ与えましょう。過食については議論がありますが、 ほとんどの方は給餌量が足りていません。まずはしっかり与えることを目標としましょう。
マレー半島には無限と言ってよいほどエサが溢れています。自然下では常に満腹状態が維持できるはずです。

本サイトではエサの販売も行っております。

道具

必ず溶接用の腕まで保護されるタイプの革手袋と27cm以上の金属製ピンセットを2本用意します。木製、竹製ピンセットはムカデが登攀しやすく、咬傷、脱走事故を招きます。

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出典

Warut Siriwut, Gregory D. Edgecombe, Chirasak Sutcharit, Piyoros Tongkerd, and Somsak Panha
A taxonomic review of the centipede genus Scolopendra Linnaeus, 1758 (ScolopendromorphaScolopendridae) in mainland Southeast Asia, with description of a new species from Laos

原記載では,Scolopendra arboreaScolopendra dehaaniの幼体に類似した色彩パターンをもつとされていました。幼体色が全く知られていなかったわけではないようです。